シカゴからシカゴへ―オバマ大統領「さよなら演説」から

2017年1月10日、オバマ・アメリカ大統領は、シカゴのMcCormick Placeで「さよなら演説(Farewell Address)」を行った。全文は、ホワイトハウスのウェブサイト
Remarks by the President in Farewell Address | whitehouse.gov
に掲載されているほか、多くの日本のメディアでも取り上げられたから、目にした方は多いだろう。
「Hello Chicago!」という、この演説の冒頭の呼びかけは、約8年前の、2008年11月4日にシカゴのGlant Parkで行われた「勝利演説(Victory Speech)」の冒頭とまったく同じものだ。シカゴは、よく知られるとおり、オバマが20代の頃に慈善活動を行った町であり、弁護士としてのキャリアをスタートしてミシェル夫人と出会った、縁の深い町である(政治家としてもシカゴのあるイリノイ州が地盤)。勝利演説の場所として選んだのと同様、さよなら演説で人々に感謝を捧げるのにもっともふさわしい地として、シカゴを選んだのもうなずける。

8年前にオバマの勝利演説を視聴し、テキストを読んだとき、政治とはまさしく、言葉によって説得する技術なのだ、と思い知らされた。今また、さよなら演説を聞き、テキストを読んで、その思いを深くしている。

オバマ大統領の最初の4年にくらべ、残りの4年は、停滞感がただよったことは事実だ。理想主義的な言説が、現実主義者からの批判にさらされたこともあった。しかし、オバマ大統領のもつ言葉の力そのものを否定する人は、アメリカの内にも外にも多くはあるまい。
オバマ大統領の「シカゴからシカゴへ」の旅をしめくくる「さよなら演説」の中から、私がとくに印象深く読んだ部分を紹介しておきたい(引用部分下のカッコ内の日本語は拙訳)。

まずは、冒頭近くの部分から。

So I first came to Chicago when I was in my early 20s. And I was still trying to figure out who I was, still searching for a purpose in my life. And it was a neighborhood not far from here where I began working with church groups in the shadows of closed steel mills. It was on these streets where I witnessed the power of faith, and the quiet dignity of working people in the face of struggle and loss.
This is where I learned that change only happens when ordinary people get involved and they get engaged, and they come together to demand it.
After eight years as your President, I still believe that. And it’s not just my belief. It’s the beating heart of our American idea –- our bold experiment in self-government. It’s the conviction that we are all created equal, endowed by our Creator with certain unalienable rights, among them life, liberty, and the pursuit of happiness. It’s the insistence that these rights, while self-evident, have never been self-executing; that We, the People, through the instrument of our democracy, can form a more perfect union.

(最初にシカゴに来たのは20代の初めです。しかし今なお私は、自分は何者であるのかを理解したいと思っており、人生の目的を探し求めています。私が教会のグループとともに働き始めたのは、閉鎖された製鉄工場が影を落とす、ここからさほど遠くないあたりでした。信念の力を目にし、働く人々が日々、何かと闘ったり、何かを失ったりするなかで静かな尊厳を保っている姿を目にしたのは、このあたりにおいてでした。この地は、「変化」というものは、普通の人々がそれを求めて団結し、積極的に関与したときに起こるのだということを私に教えてくれた場所でもあります。
8年間、大統領として過ごしてもなお、私はそのことを信じています。そして、それは私個人の信念ではなく、アメリカの建国の精神、すなわち自治(self-government)という果敢な実験の根幹にあるものです。)

続いて、中盤あたり。アメリカ人以外には、やや鼻につく表現だが、アメリカとはどのような国であるのかの自己認識をよく示している。

We have everything we need to meet those challenges. After all, we remain the wealthiest, most powerful, and most respected nation on Earth. Our youth, our drive, our diversity and openness, our boundless capacity for risk and reinvention means that the future should be ours. But that potential will only be realized if our democracy works.

(我々アメリカは、そうした困難に対峙するのに必要なものはみな備えています。地球上でもっとも富める国であり、もっとも力があり、もっとも尊敬される国であるからです。若さ、勢い、多様性、開かれた精神(openness)、リスクや革新に対する無限の許容力は、未来は我々の手にあるということを示しています。しかし、その潜在力は、民主主義が機能したときにのみ顕在化するでしょう。)

今回の演説のなかで、やや意外な感じがしたのが、「民主主義」「経済問題」「人種問題」「テロとの戦い」に加えて、「気候変動」の問題への取り組みを、トピックとして取り上げている点だ。そして、その解決にあたっては、「イノベーション」と「実践的な問題解決(practical problem-solving)」が鍵を握っており、それらは、建国以来の米国の精神だと述べている(このあたり、ホフスタッターの『アメリカの反知性主義』での主張につながる)。

Take the challenge of climate change. In just eight years, we’ve halved our dependence on foreign oil; we’ve doubled our renewable energy; we've led the world to an agreement that has the promise to save this planet. (Applause.) But without bolder action, our children won’t have time to debate the existence of climate change. (…)
Now, we can and should argue about the best approach to solve the problem. But to simply deny the problem not only betrays future generations, it betrays the essential spirit of this country -- the essential spirit of innovation and practical problem-solving that guided our Founders.(...)

(気候変動の問題に取り組む必要があります。8年間で、我々は石油依存を半減させ、再生可能エネルギーを倍層させ、地球を守ることを約束する協定(パリ協定)へと世界を導いてきました。しかし、大胆な行動がなければ、我々の子どもたちに、気候変動の存在について議論する時間は残されないでしょう。(中略)我々はいま、この問題を解決する最善の方法を議論することができるし、そうすべきです。この問題の存在を否定することは、将来の世代を裏切ることになるだけでなく、この国の本質を形づくる精神、すなわち、建国者たちを導いたイノベーションの精神と、実践的な問題解決の精神を裏切ることになります。)

演説の終盤では、8年の政権を支えた人たちへの感謝が述べられる。まずは、シカゴの「サウスサイドの少女だった」ミッシェル夫人に対して(そう述べたときに、会場から盛大な拍手が起こったことは言うまでもない)。

(…) You took on a role you didn’t ask for and you made it your own, with grace and with grit and with style and good humor. (Applause.) You made the White House a place that belongs to everybody. (Applause.) And the new generation sets its sights higher because it has you as a role model. (Applause.) So you have made me proud. And you have made the country proud.

(あなたは、頼まれたからではなく、自分の意思によってその役割を果たしました。品位と、気概と、独自のスタイルをもって、ユーモアとともに。あなたは、ホワイトハウスをみんなの拠り所にしました。次の世代はあなたをロールモデルとして、目標をさらに高いところに置くようになるでしょう。あなたは私の誇りであり、この国の誇りです。)

この後、二人の娘(マリア、サーシャ)と、ジョー・バイデン副大統領への感謝につづいて、ホワイトハウスのスタッフたちにこう述べる。

(…) I have drawn from your energy, and every day I tried to reflect back what you displayed -- heart, and character, and idealism. (…)Even when times got tough and frustrating, you never let Washington get the better of you. You guarded against cynicism. (…)

(みなさんは私の牽引力となってくれました。私は毎日、みなさんが示した心づかい、高潔さ、理想主義に思い寄せました。どんなに厳しい、苛立たしい状況にあっても、ワシントンの現実がみなさんを打ち負かすようなことは決してありませんでした。みなさんは、シニシズムを防いだのです。)

シカゴのその場に集まっている支持者たちに対しても感謝を述べた後、新たな世代に向けてこう語る。

Let me tell you, this generation coming up -- unselfish, altruistic, creative, patriotic -- I’ve seen you in every corner of the country. You believe in a fair, and just, and inclusive America. (Applause.) You know that constant change has been America’s hallmark; that it's not something to fear but something to embrace. You are willing to carry this hard work of democracy forward. You’ll soon outnumber all of us, and I believe as a result the future is in good hands. (Applause.)

(新世代のみなさんに伝えたい。利己的でなく利他的であり、創造性にとみ、愛国的な新世代のみなさんが、この国の至る所にいるのを私は目にしてきました。みなさんは、フェアで公明正大で、包容力のあるアメリカを信じています。みなさんは、変化し続けることがアメリカのトレードマークだということを知っています。みなさんは、民主主義を前進させるという、この困難な仕事を行う意思を持っています。まもなく、みなさんが多数派を占めるようになっていくでしょう。だから、未来は安泰だと私は信じています。)

シカゴからはじまり、シカゴで終わった、オバマの旅。
オバマ大統領は、アフリカ系アメリカ人初の大統領ということとともに、「言葉の持つ力」を再認識させた大統領として、人々の記憶に深く刻まれることになるだろう。