「Talk, Inc.」を読む

 仕事柄、企業コミュニケーション関係の本に目を通すようにしているが、そうした中で、最近、非常にインスパイアされる本に出合ったのでご紹介したい。
 タイトルは「Talk, Inc.」。著者は2人で、1人は、ハーバード・ビジネス・スクール教授で組織行動が専門のBoris Groysberg。もう1人、 Michael Slindはコミュニケーション・プロフェッショナルであり、「Fast Company」誌等での編集経験をもつ。本書の主要テーマは、一言で言えば、サブタイトルとおり、「How trusted leaders use conversation to power their organizations(信頼されるリーダーは組織強化のために会話をどう利用しているのか)」。
 本書のキーワードは「組織会話(organizational conversation)」である。「組織対話」としたほうが自然な日本語である気もするが、「対話」というと、1対1の会話(dialogue)のイメージが強いので、もう少し広い意味合いをもたせるために、とりあえず「組織会話」としておく。 
 著者らは、「組織会話」を、従来のコーポレート・コミュニケーションに取って換わるものと位置付けている。従来のコーポレート・コミュニケーションは、対外的なものであれ社内向けのものであれ、「指令と管理」の色彩が強かった。要するに、社内においては上位下達であり、社外に対してはコントロールされたメッセージを送る。しかし、新しい時代には、これら旧来型の一方向のコーポレート・コミュニケーションではなくて、「組織会話」こそが重要であると、著者らは説く。
 なぜ、「組織会話」が有益なのかを説くに際して、著者らは、ベンチャー企業・小企業の例を挙げている。高いパフォーマンスを挙げているベンチャー企業は、社内のコミュニケーションが「会話モード」であるというのだ。つまり、「リーダーと一般社員との距離が物理的にも心理的にも近く、その結果、社員はリーダーを信頼する」。また、情報は容易にシェアされ、リーダーの考えるビジョンや優先順位を他の社員も皆共有できるので、「焦点」がブレることがない。そして、組織の壁に邪魔されずに、皆が、自社の中核的なビジネスに直接かかわっているという、「参加」感をもつことができる。こうした、うまくいっているベンチャー企業や小企業に倣って、大企業や老舗企業においてもリーダーが「会話」を意識すれば、成長力やそのためのエネルギーをとりもどせる、と著者らは述べるのである。
 「組織会話」に必要な要素は何か? 組織会話をうまく実施している企業の事例から、著者らが抽出した要素は次の4つであるという(いずれも、「I」で始まるキーワードである)。
1つ目は、Intimacy(親密さ)。あたかも、2人の人間同士の会話のように、組織会話においても、リーダーが一般社員と膝を詰めて会話する必要があり、あらゆる階層の人の言葉に真摯に耳を傾ける技術を養う必要があると、著者らは説く。それが信頼につながるからである。
 2つ目の要素は、Interactivity(双方向性)である。「組織会話」は、伝統的なコーポレート・コミュニケーションが一方的なものであるのに対し、それを「ダイナミックなプロセスに置き換える」。
3つ目の要素は、Inclusion(巻き込み)である。「会話への巻き込み(conversational inclusion)を通して、リーダーは社員の参加意識を高め、イノベーションへと駆り立て、創造性を掻き立て、組織のブランディングや評判を改善することができる」と著者らは述べている。
 4つ目は、Intentionality(意図的であること)。「組織会話」は、たんなるおしゃべりではなく、「その会社の戦略的な目標と一致するアジェンダに従ったものや、それを発展させるものが、奨励される」。時間が経つにつれ、そうした組織内の会話が、「その組織にとっての唯一のビジョン、自社のミッションへの共通理解に、集約されていく」。
 ところで、なぜ、旧来のコーポレート・コミュニケーションから「組織会話」へのシフトが起きてきているのか。著者らは6つの原因を挙げている。
 第1は、経済構造の変化。経済のサービス化、そして、(ドラッカーが予見したように、あらゆる労働の)知識労働化により、「情報の処理・シェアのためにより洗練された方法が必要になってきている」。
 第2は、組織構造の変化。組織がフラットになり、「前線の社員が価値創造的な仕事において枢要な役割をしめるようになるにつれ、横方向およびボトムアップのコミュニケーションの重要性が増している」。
 第3は、グローバルな変化。労働力の多様化・分散化によって、従来の管理手法が合わなくなり、より流動的で複雑な相互作用のやり方が求められるようになっている。
 第4は、世代的な変化である。ミレニアル世代(ジェネレーションY)が組織で力をもつようになるにつれて、上の層に対しても、ダイナミックで双方向のコミュニケーションを求めるようになる。
 第5は、テクノロジーの変化。インターネットやソーシャルメディアの発達により、「組織コミュニケーションにおいて古くさくて、会話的でないチャネルに依存することは、もはや持続不可能だ」と著者らは言う。
  第6は、速度の変化である。1〜5の変化の相乗効果により、意思決定にかけられる時間がどんどん短くなり、リーダーが社員を意思決定プロセスに携わらせることが、待ったなしになってきている。

 以上、本書のイントロダクション[p1 〜9]をもとに、著者らの主張を整理したが、これらの主張は、「コミュニケーション・サポート」の仕事をしている私にとっては、自分の仕事の将来の変化を予言するようで、いろいろ考えさせられた。著者らは100以上の組織、150人以上の人へのインタビューをもとに本書を執筆したそうだが、インタビュー相手である各組織のリーダーたちは、「組織会話を維持することはトップ・エグゼクティブが自ら果たさなければならない役割であり、それをプロフェッショナル・コミュニケーターに任せることはもはや有効なオプションでない」と示唆したという。
 本書の述べるように「親密で」「双方向で」「(社員を)巻き込み」「意図的な」組織会話が全盛となったときに、企業コミュニケーションの外部サポーターの役割は、果たしてどう変わっていくのか。企業のリーダーたちが迎えているような根本的な変化に、その周辺にいる私たちもこれから向き合うことになるのかもしれない。ちょっと怖い気もするけれど、でもその変化をワクワクしながら受け止め、積極的に「巻き込まれ」て行きたいと思う。
 

Talk, Inc.: How Trusted Leaders Use Conversation to Power Their Organizations

Talk, Inc.: How Trusted Leaders Use Conversation to Power Their Organizations

  • 作者: Boris Groysberg,Michael Slind
  • 出版社/メーカー: Harvard Business School Pr
  • 発売日: 2012/06/19
  • メディア: ハードカバー
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