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シェリル・サンドバーグの卒業式スピーチ

毎年、5月のこの時期はアメリカの大学の卒業式シーズンであり、卒業生に対してビジネス界や政界のリーダーが行ったスピーチがウェブ上に公開されるのを楽しみにしています。今年は、フェイスブックのCOOであるシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)が5月23日に、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の卒業式で、2012年の卒業生に向けてスピーチをしています(サンドバーグ自身がHBSの1995年の卒業生)。そのスピーチから、印象的な部分をご紹介します。
(サンドバーグの人となりについては、Bloomberg Businessweek(NBオンライン)の記事「フェイスブックを支えるNo.2、サンドバーグ氏の素顔」に詳しいので、そちらをご参照ください。)


サンドバーグは、ハーバード大学(経済学部)でローレンス・サマーズ教授の下で学んだあと、師が世界銀行のチーフ・エコノミストになるのに伴い、世銀のスタッフとなり2年間働きます。その後、HBSを経て、サマーズ氏がクリントン政権で財務長官になった際に、サンドバーグはその首席補佐官となりました。そして、2001年にサンドバーグが次の就職先として選んだのはグーグルでした。2001年といえば、まだグーグルが海のものとも山のものともつかない頃です。
以下はエリック・シュミットにグーグルへの入社を説得される場面です。

So I sat down with Eric Schmidt, who had just become the CEO, and I showed him the spread sheet and I said, this job meets none of my criteria. He put his hand on my spreadsheet and he looked at me and said, Don’t be an idiot. Excellent career advice. And then he said, Get on a rocket ship. When companies are growing quickly and they are having a lot of impact, careers take care of themselves. And when companies aren’t growing quickly or their missions don’t matter as much, that’s when stagnation and politics come in. If you’re offered a seat on a rocket ship, don’t ask what seat. Just get on.

希望の職種と役職を書いた一覧表を示しながら、「提示されているグーグルでの職は私の希望に合わない」と言うサンドバーグに対して、グーグルのCEOになったばかりのエリック・シュミットはたしなめ、最高のキャリアアドバイスをしてくれます。「馬鹿言っちゃいけないよ。君はロケットに乗るんだよ。会社が急成長を遂げていていろんな影響力を持っているときには、キャリアはあとからついてくる。会社が成長していなかったり、会社のミッションが論外だったりすると、停滞や社内政治が起きる。もし、君がロケットに乗りたいなら、どの席かと聞いちゃいけない。ただ乗るしかないんだよ」。

さて、グーグルで6年半をすごしてから、サンドバーグはFacebookに移ります。このとき、別の会社からCEO職のオファーがあったそうですが、サンドバーグが選んだのはFacebookのCOOでした。Facebookに移るに際し、声をかけてきた女性Lori Goler(Facebookの人事担当副社長)は、サンドバーグに対し、キャリアというのは「梯子」ではなく、「ジャングルジム」だ、というメタファーでサンドバーグを説得します。つまり、ジャングルジムでは、一直線に上にあがるだけでなく、横に移動したり、ときには下がったりもするものだ、と。
伝統的なキャリアの階層にとらわれてはいけない、リーダーシップの在り方自体が変わっている、ということを伝えるために、サンドバーグは、自分よりも17年後にHBSを卒業する世代に向けて、次のようなメッセージを送っています。

You are entering a different business world than I entered. Mine was just starting to get connected. Yours is hyper-connected. Mine was competitive. Yours is way more competitive. Mine moved quickly, yours moves even more quickly. As traditional structures are breaking down, leadership has to evolve as well. From hierarchy to shared responsibility, from command and control to listening and guiding. You’ve been trained by this great institution not just to be part of these trends but to lead. As you lead in this new world, you will not be able to rely on who you are or the degree you hold.
You’ll have to rely on what you know. Your strength will not come from your place on some org chart, your strength will come from building trust and earning respect. You’re going to need talent, skill, and imagination and vision, but more than anything else, you’re going to need the ability to communicate authentically, to speak so that you inspire the people around you and to listen so that you continue to learn each and every day on the job.

「あなたがたは私の頃とは違うビジネス世界に入ろうとしています。私がビジネス界に入った頃は、(ネットで)つながり始めた時代でしたが、現在は、hyper-connectedです。私の頃よりも、現在はさらに競争が激しくなり、変化もさらに激しくなっています。伝統的な組織は解体され、リーダーシップは進化しています。階層から、責任の分担へ。指令と統制から傾聴と教導へ。あなた方はここ(HBS)で、こうした潮流の一部になるのではなく、こうした潮流をリードするよう訓練されてきました。この新世界をリードするときに、自分の属性や自分の学位に寄りかかってはいけません。あなた方は、自分の学んだことそのものに依拠すべきです。あなたがたの強みは、会社の組織図の中のポジションからもたらされるものでなく、信頼を築いたり尊敬をかち得たりすることからもたらされるのです。あなたがたに必要なのは才能や技能や想像力やビジョンですが、何より大事なのは、真のコミュニケーションです。あなた方が話しかければ周りの人から刺激を受けることができ、あなた方が耳を傾ければ、仕事についてお互いに毎日学び合うことができるのです。」

スピーチの後半では、自身がグーグルやFacebookでコミュニケーション面で何を学んだか、ということを述べた上で、リーダーの心得として、こう語ります。

As you graduate today, ask yourself, how will you lead. Will you use simple and clear language? Will you seek out honesty? When you get honesty back, will you react with anger or with gratitude? As we strive to be more authentic in our communication, we should also strive to be more authentic in a broader sense. I talk a lot about bringing your whole self to work―something I believe in deeply.
Motivation comes from working on things we care about but it also comes from working with people we care about, and in order to care about someone, you have to know them. You have to know what they love and hate, what they feel, not just what they think. If you want to win hearts and minds, you have to lead with your heart as well as your mind. I don’t believe we have a professional self from Mondays through Fridays and a real self for the rest of the time. That kind of division probably never worked, but in today’s world, with a real voice, an authentic voice, it makes even less sense.

「今日、卒業にあたり、どのようなリーダーになるか、自らに尋ねてみて下さい。あなたはシンプルで明快な言葉を使いますか。正直でありたいと願いますか。相手が正直に何か言った時に、怒りますか、それとも感謝しますか。コミュニケーションにおいて誠実でありたいと願うならば、より広い意味において、さらに誠実であるべきです。私はあなたがたに、全人格をかけて仕事をしなさい、ということを伝えたいと思います。それは私自身の信条でもあります。
モチベーションは私たちがケアしている物事からのみならず、ケアしている人々から生まれます。人々をケアするためには、彼らのことを知る必要があります。彼らが何を愛し何を憎むのか、そして、彼らが何を考えているかではなく何を感じているのか、を知る必要があるのです。人々の心をつかもうと思ったら、自分も誠心誠意をつくさなければなりません。私たちは月曜日から金曜日までは職業人で、土日は本来の自分、というわけではありません。そのような区別はもはや存在せず、本心から語ることが意味をもつ今日の世界では、そのような区別は全く意味をもちません。」

このスピーチでやや意外でもあり、また大いに共感したのが、スピーチの最後の方の部分で、サンドバーグが最近になってようやく、自らがワーキングマザーであることを公の場で話すようになり、女性が職場でどのような問題に直面しているか、ということを語るようになった、と述べている点です。最近も、あるインタビューで、子ども達と夕食を共にするために5時に帰る、という話をしたら、それがメディアでひどいとりあげられかたをした、とサンドバーグは嘆いています。(24時間7日間つながっていて、オフィスで働こうが自宅で働こうが関係なくなっている2012年の現在においてさえ、会社に長くいるのが偉い的な価値観があるのは、あきれるほかないのですが・・・。)それでも、サンドバーグはスピーチの最後で卒業生たちに希望を託しています。

…that your generation accomplish what mine has failed to do. Give us a world where half our homes are run by men and half our institutions are run by women. I’m pretty sure that would be a better world.

「あなたがたの世代は、私たちにできなかったことを達成してください。すなわち、家庭の半分が男性によって切り盛りされ、組織の半分が女性によって経営されるような世界をつくってください。そのような世界は、現在よりもよりよい世界であることを確信しています。」