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ブレアは首相質問にいかに備えたか

 日経新聞の今月の「私の履歴書」は、英国元首相トニー・ブレア(在任:1997年5月〜2007年6月)によるもの。その率直なもの言いに好感がもて、「履歴書」を毎日楽しみに読んでいる。浩瀚な書なので、買うのをしばらく躊躇していた『ブレア回顧録』(上・下、石塚雅彦訳、2011年11月刊)もついに買ってしまった。
 いろいろ読みどころはあるが、私自身の関心である「言葉」「構造化」ということに引き付けて、少しだけ紹介したい。
 「履歴書」では昨日(1月13日付)掲載されたが、ブレアは、英国議会の名物である首相質問(PMQ)が苦手だったという。「在任中を通して、最も神経をすり減らし、気力を使い果たす経験だった。(中略)時間がたつににつれ、うまくこなせるようになったが、恐怖が一瞬たりとも消えることはなかった」。
 では、ブレアはどんな対策をとったのか。以下は、書籍『ブレア回顧録』(上)のp203〜206による。
 まず、「分析をして、どうすれば自分の能力を最大限に生かすことができるかを考えだそうとした」。そして、少年時代の学校の授業でのボクシングの経験を思い出し、「一歩も引かずに戦う」ことを決意する。具体的には、次のようなPMQ対応のパターンを作った。

  • 「すべての始まりは、もっと勇気をもち、後ろに引きさがることなく戦おうという決意」
  • 「精神的にだけでなく、身体的にも適切な状態にいることの大切さ」。それでブレアは、前の晩は少なくとも6時間の睡眠をとるようにした。
  • (質問者に出し抜かれることを防ぐための対応策として)「事実を掌握していることよりも、議論の戦略をしっかり頭に入れておくこと。もちろん、調査に裏づけられた正しい事実は不可欠だ。(中略)しかし勝利を収めるための最後の構成要素は事実そのものではなく、それがどう活用されるかだった。事実というのは、いわば馬であり、甲冑であり、槍である。腕のみせどころは、それらをどう最大限に有効に使うかだ」
  • 「ユーモアの力、めりはりの大切さ。(中略)ユーモアのセンスはもっていたが、私に必要だったのはそれを使う自信だった」

 このような戦略にもとづき、場数を踏むことによって、ブレアはPMQをうまくこなせるようになり、「相手を爆破するだけでなく、武装解除させる術」も学んだ。「向こうが全速力で突っ込んできたら、こちらは心和む理性の声になる。向こうがこちらを辱めるとき、こちらは憤りではなく憐れみをもって相手を見る」というように。
 政治家になる前のブレアは法廷弁護士だったから、スピーチやディベートは得意中の得意だったのだろうと勝手に思っていたが、最初はけっしてそうではなく、このような戦略と入念な準備、そして場数を踏むことにより、だんだんと鍛えられたのだ。大いに勇気づけられる。

ブレア回顧録〈上〉

ブレア回顧録〈上〉


ブレア回顧録〈下〉

ブレア回顧録〈下〉