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言葉と生き方と

24日(現地時間、日本では25日)は、アップルの、スティーブ・ジョブズ氏のCEO引退のニュースが世界中を駆け巡りました。私自身は、多くの方のツイッターでこのニュースを知り、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された、ジョブズ本人の手紙(直接的には取締役会とアップル・コミュニティに向けたもの)を読んで、その引き際の見事さと、「言葉の力」に、圧倒されました。
英語版
日本語版
まず、冒頭の言葉。

I have always said if there ever came a day when I could no longer meet my duties and expectations as Apple’s CEO, I would be the first to let you know. Unfortunately, that day has come.

(アップルのCEOとしての義務と期待が満たせなくなった日が来たら、そのことをまっさきにあなた方に知らせると、いつも言ってきました。残念ながら、その日が来てしまいました。)
「Unfortunately」というところで、読者としては、信じたくない事実を受け入れざるを得なくなります。
しかし、すばらしいのは、一段落置いたあとで、後継者としてティム・クックの名前を挙げるときに、「strongly recommend」と、自分が、ティム・クックを強く支持していることを読者に伝え、読者の不安な気持ちをやわらげようとしているところです。

As far as my successor goes, I strongly recommend that we execute our succession plan and name Tim Cook as CEO of Apple.

そしてさらに、

I believe Apple’s brightest and most innovative days are ahead of it. And I look forward to watching and contributing to its success in a new role.

(私はアップルの輝かしく、最もイノベーティブな日々が前途にあると信じています。それを見届けたいし、その成功に対して、新たなポジションで貢献したいと願っています。)
「brightest and most innovative」と、そもそも強い形容詞を最上級で用い、何より、「believe」という強い動詞によって、そのことをさらに強調しています。
さらに、「I look forward to」以下で、決して無責任に退任するのでなく、きちんと先々のことを見て行くから、安心してほしいというメッセージを、手紙の直接の受け手だけでなく、おそらく世界中のアップル・ファンと株主をはじめとするステークホルダーに伝えています。


私は、これまで、これほどパワフルな、退任のメッセージを読んだことがありません。ジョブズといえば、あの良く知られた、スタンフォード卒業式でのスピーチも、構成の見事さと、個々のフレーズのインパクトの強さに、読むたび・聴く度に圧倒され、いつも何かしら新たな発見があります。最近、そのなかでも特に座右の銘として、仕事のデスクの近くの壁にプリントアウトを張っているのは以下の部分です。

When I was 17, I read a quote that went something like: "If you live each day as if it was your last, someday you'll most certainly be right." It made an impression on me, and since then, for the past 33 years, I have looked in the mirror every morning and asked myself: "If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?" And whenever the answer has been "No" for too many days in a row, I know I need to change something.

毎朝鏡を見ながら、というわけではありませんが、私自身も、「もし今日が人生最後の日だったら、私が今日やろうとしていることを、本当にやるだろうか」ということを、ときどき自分に問いかけるようにしています。そして、ジョブズにならって、「ダレて来たな」と思うと、「何かを変えないと」と自分を奮い立たせるようにしています。
このスピーチ全体が表現しているのは、ジョブズの苛烈な生き方と、その生き方を余すところなく表現する、彼のもつ「言葉の力」です。そして24日の退任の手紙も、彼の生き方とアップルへの思いが、すべての言葉に凝縮されているように感じました。みなさんは、どんなふうに読まれたでしょうか。