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イタリア雑記帳

 12月16日〜22日まで(23日に帰国)、ローマ、アッシジフィレンツェヴェネツィアを回って来ました。前に書いたとおり、初めてのイタリアであり、ヨーロッパは16年ぶりです。
 しかし…寒かった! ローマに着いた翌日には雪が降り、フィレンツェに移動したら、同地にも10センチくらい雪が積もっていました。雨の日も多くて、晴れた日が少なく(快晴だったのは、2日間くらい)、フライトの遅れにあわなかったのが幸い、という旅行でしたが、非常に印象深い、というか、かなり大きなカルチャーショックに見舞われた旅でした。
 行く前はそれほど意識していなかったのですが、美術館や教会巡りが中心となり、結果として、ヨーロッパのキリスト教の歴史をたどるような旅となりました。バチカン博物館、フィレンツェのウフィツィ美術館、メディチ家礼拝堂、アッシジのフランチェスコ教会(ジオットーの聖フランチェスコのフレスコ画で著名)、ヴェネツィアの聖マルコ教会、ヴェネツィア総督府(ティントレットの油彩の巨大な壁画や天井画等で著名)等々をまわったのですが、いずれも、絵画そのもの、というより、巨大な回廊の天井や壁がすべて絵や彫像で埋め尽くされているその全体に、打ちのめされるような思いでした。画集の中、あるいは、日本に持ってこられるサイズの絵画のみで捉えていた「西洋絵画」に対するイメージがものの見事に粉砕されました。
 そして、ウフィツィ美術館では、ボッチチェリの「ヴィーナスの誕生」や「春」など、ルネサンスを象徴するような絵の数々も見たのですが、実はそれ以上に衝撃的だったのは、最初にローマでみた、バチカン博物館・署名の間にあるラファエロのフレスコ画(壁画)でした。下に、写真をアップしますが、ずっと以前から、ぜひ実物を見たいと思っていた「アテナイの学堂」の絵(プラトンアリストテレスを囲むように古代ギリシャの哲人たちが並んだ絵=哲学)と、そのほかの3点の壁面の絵(「聖体の論議」…神、キリスト、マリアや聖人たちを描いた絵=神学、「パルナッソス」…アポロンをミューズたちが囲み、ホメロスなど実在の詩人たちを一緒に描いた絵=詩学、もう一点は「正義」の絵)です。この部屋を訪れるまでは、「アテナイの学堂」は単独で存在すると思っていたのですが、それが、「神学」や、「ギリシャ神話」をモチーフにした絵と並んで、同じ筆致で描かれていたとは! ヨーロッパ思想というのは、べブライイズムとヘレニズムを源流とする、ということを頭で理解していたつもりでしたが、この部屋を訪れて、それが直感としてわかったと言うとおこがましいのですが、それらが違和感なく溶け合って思えました(それまでは、へブライイズムとヘレニズムは、異質なものを無理やり撚り合わせたようなイメージがあったのです)。
 これらの美術館や教会をめぐって感じたのは、ヨーロッパにおけるキリスト教の計り知れなさです。実は私自身は幼児洗礼のカトリックなのですが(最近はほとんど教会に足をはこんでいないので、「カトリックでした」という過去形に近いのですが)、日本で感じるカトリシズムと、イタリアで感じたカトリシズムは全く違います。以前に、「ヨーロッパの20世紀の思想史は、ヨーロッパが1500年かけて自らに入れてしまった「キリスト教」のアンインストールに苦労している歴史ではないか」と思ったことがありますが、このアンインストールは生易しいものではなく、細胞のすみずみにまで入りこんでしまっていて、おそらく完全に抜きとることは、未来永劫に不可能なのではないか、と感じずにはいられませんでした。
 今回の旅では、多くの中国人観光客に出会いました。世界が今、中国やインド等の新興国中心に回っていることをこんなところからも感じさせられました。フィレンツェの最盛期には、メディチ家が芸術のパトロンとなって、フィッツィにあるようなすばらしい絵画が生み出され、パックス・ブリタニカの時代には大英博物館にあるような彫刻や遺跡の一部や絵画がイギリスにもたらされ(略奪したという話もありますが…)、パックス・アメリカーナの時代には、アメリカの大富豪が美術品を買い集め…。日本が世界第二の経済大国だった時代には、いわゆるファインアートの全盛を迎えるかわりに、漫画、アニメ、ゲームが花開きました。「総中流」といわれたように、貧富の格差が少なかったこともあり、大金持ちが絵画を買いつけたり、パトロンになるというよりも、中流の国民がこぞって、消費者として漫画やゲームにお金を投じた結果と考えられるのかもしれません。中国やインドがリードするであろうこれからの時代には、どんな文化が花開くのでしょうか。そんなことを考えながら、日本への帰途につきました。


バチカン博物館、署名の間、「アテナイの学堂」(ラファエロ

同、「聖体の論議」(同)

同、「パルナッソス」(同)

夜のローマ

アッシジの街

アッシジの聖フランチェスコ教会(1229年着工)。聖フランチェスコの生涯を描いた、ジオットーの素晴らしいフレスコ画のシリーズがある。この日(12月18日)は、なんとこの教会でマイケル・ボルトンのクリスマス・コンサートをやっていて、あやうく中に入れないところだったが、警備員さんにたのんで、コンサート後の片づけ時間に、短時間だけ中に入れてもらった。「小鳥と話をする聖フランシスコ」の絵に出会えて感激。

フィレンツェのクリスマス・イルミネーション

雪のフィレンツェ

曇天のヴェネツィア