ウェブ世界とリアル世界に橋がかかった日――棋聖戦ウェブ観戦体験記

得難い体験をした。産経新聞社主催の棋戦、棋聖戦をウェブ観戦したのだが、そこで、まったく予想しなかった新世界を垣間見ることができた。
梅田望夫さんの棋聖戦ウェブ観戦記は、この第81期棋聖戦で3年目。1年目のとき(2年前)に華麗にして豊饒な観戦記がつづられていくのを、ほぼリアルタイムでドキドキしながら読み(『シリコンバレーから将棋を観る』第二章参照)、以来、将棋はわからないものの、梅田さんの観戦記の面白さと棋士の方々の魅力にひかれて、将棋ファンの一人となった。
棋聖戦では、羽生棋聖に挑戦するのが深浦王位ということもあって、これは見逃してはならじと、朝から仕事を半分放り出して、梅田さん観戦記中継ページ棋譜ページと、関係者のツイッターを眺めていた。
梅田さんのブログは、もはや観戦記文学に達しているので、それを読む楽しみも勿論あったのだけれど、今回はそれに加えて、立会人が米長将棋連盟会長で、「出雲の稲妻」の里見香奈女流名人・倉敷藤花が現地大盤解説の解説者だったりと超豪華キャスト。「平安絵巻ならぬ平成絵巻のよう」などと思いながら、午後3時くらいまでは、花見客のように気楽に楽しんでいた。
ところが、3時頃から、東京の将棋会館での大盤解説のUストリーム中継が始まると…。
実は、Uストリーム自体をリアルタイムで見るということが初めてだったということもあって、最初のうちは、動画と右側のチャット部分の連動がおもしろくて見ていた。けれどもしばらく見るうちに、完全に2000人(最盛期は2400人くらい)と一体化して、出雲の羽生棋聖・深浦王位と、それを大盤解説をされている若手棋士の方々を、一緒に応援している自分に気付いた。解説者の方々は、Uストリームをみている人たちに適宜質問を投げかけたりして、チャットもその都度盛り上がる。出雲の様子も、控室の棋士の方や記者の方から適宜ツイッター経由で入ってきて連帯感が保たれる。
そして、何より驚いたのは、これだけ不特定多数が参加しているにもかかわらず、チャットが全然荒れないこと。チャットには、

「将棋の先生って放送も出来るんだね すごいね」
「Ust2000人超えた。将棋の解説でかつてこれだけの人が一堂に会したことがあるだろうか。時間が潤沢なので内容も深い。「プロ棋士の解説の最大化」はネットによってもたらされるのか。」
「プロ棋士の思考プロセスが見えるのは非常に楽しいね」
「若手がこういう試みをしてくれて、それを受け入れてくれる連盟もなかなかやるなぁ。 他の棋戦でもぜひ期待したいところです。」

といった、ポジティブであたたかなメッセージがあふれていた。
結果は、羽生棋聖の勝利で、深浦王位の粘りが光る戦いだった(ということを、Uストリームのチャットで私は知った)。
武道館コンサートに行ったときと同じように、ほかの観客と一体感が持てた日。
リアルとネットに橋がかかった今日のことを、忘れずに覚えておきたい。