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せっかちな楽観主義者

世界はよくなりつつあります。
世界は過去のどの時代よりも、はるかに住みやすい場所になっています。
社会における女性やマイノリティの地位を、過去のどの時代でもいいですから、比較してみてください。どの社会でもかまいません。
また、過去百年のあいだに平均寿命がほぼ二倍になったことを考えてみてください。
国家の統治形態はどうでしょう。選挙で投票をおこない、自分の意見を表明し、経済的自由を謳歌している人々の数を、過去のどの時代でもいいから比較してみてください。(・・・)
私は世界をそんなふうに見ています。つまり、みなさんがすでにお気づきのように、私は楽観主義者なのです。
しかし私は、せっかちな楽観主義者でもあります。
世界はよくなりつつありますが、私はその進歩の速度には満足していません。それに、誰の目から見ても世界がよくなりつつあるというわけでもありません。
ときには世界における偉大な進歩が、世界の不平等をいっそう悪化させてきました。(・・・)
実際、一日一ドル以下で生活している人が世界には十億人もいるのです。
――ビル・ゲイツ「資本主義への新たなアプローチ」(マイケル・キンズレー編・和泉裕子・山田美明訳『ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る』所収、p.13〜14)

 2008年1月のダボス会議において、ビル・ゲイツがスピーチ「資本主義への新たなアプローチ」のなかで表明した「クリエイティブ・キャピタリズム」という概念をもとに、経済学者たちの論争がおこり、それが1冊の本にまとめられた。英語版タイトルは”Creative Capitalism”(edited by Michael Kinsley)。邦訳は上記引用のとおり『ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る』(徳間書店、2009年4月)。
 経済学者たちのクリエイティブ・キャピタリズムをめぐる議論(せんじつめて言えば、企業は貧困問題に対して何ができ、何ができないのか)もそれぞれ興味深い。
 しかしやはり、この議論の嚆矢となったビル・ゲイツの上記スピーチはもっとも破壊力があり、ある意味で、歴史を変えるスピーチであると思う。20世紀を代表する経営者であり、億万長者番付で常にトップを争ってきた大富豪であるビル・ゲイツが、貧しい人々をも含みこむ新しい資本主義を表明したということのインパクトに加え、そのビジョンをわかりやすい言葉で語ったということに、大きな意味を感じる。
 もちろん、研究者の方々の地道な実証研究が、世界を良くすることに貢献していることは言うまでもない。しかし、ときに、このようなビジョナリーのわかりやすくインパクトのある言葉が、それに加速度をもたらす。
 百年の単位、数十年の単位で見れば、世界はよくなっている、と思う楽観主義者は多いだろう。でも、実際に世界を主体的に変えていくのは、ゲイツのような「せっかちな」楽観主義者なのである。


ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る

ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る