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ツアー・コンダクター的仕事術

 人は迷わされるのが嫌いです。・・・これは町を歩いているときのような物理的空間の中で迷う場合だけではなく、説明を聞くときも同じです。・・・あなたが説明をする時も、聞き手にこんな不快感を与えないように配慮することが大切です。ちょうど団体旅行の添乗員やバスガイドさんの引率の心構えが参考になります。
 たとえば添乗員が博物館の案内をするとしたら、次のような感じです。
1)まず、博物館の構造、展示の量、配置などを説明する。
2)ポイントになる展示物のところへグループを連れていく(引率)。その際、お年寄りや障害者など、足腰の弱い人の歩行速度に合わせて、ゆっくりと無理のない速度で歩く。
3)移動(引率)中は、時々振り返り、グループ全員が後をついてきているかを確認する。
4)時々、今見ている展示物が博物館全体の中のどのテーマ区画に属するのか、また、まだ見学していない展示物がどのくらいあるかなどを知らせる。
――藤沢晃治『「分かりやすい説明」の技術』(講談社ブルーバックス、p126〜127)

 プレゼンテーションをしているときに、ついつい細部に入りこみ、聴衆が置いてきぼりになる、なんてことは、気をつけていないと起こりがちだ。私自身もプレゼンテーションは得意でない。それゆえ、上記の書の「添乗員さんの心構え」は、大いに参考になった。
 と同時に、ツアー・コンダクター的仕事術は、説明の場面に限らず、仕事全般の基礎になるのではないか、ということに気がついた。少し前に読んだ、大前研一氏の著書に、氏が学生時代に通訳案内業のアルバイトをした経験について書かれていたことを思い出したのである。

・・・大好きなクラリネットを大学のオーケストラで吹きたいと思っていたが、それを買う金がない。仕方がないので学生アルバイトで一番儲かる商売として通訳案内業がある、と聞いて、その試験を受けるために俄勉強をした。これが英語をしゃべるようになった切っ掛けである。・・・
 ガイドをやっていれば、大勢の人を相手に一糸乱れず行動するように指導しなくてはいけない。重たいスーツケースを持っている高齢者を一分以内に乗り込ませなければ汽車は行ってしまう。・・・予測と判断をしなくてはならないことが山のようにある。・・・
 多くの人を思うように動かすことの難しさ、大切さ、動かせなかったときの被害、などを学生だてらに学ぶことができた。そのような経験を通して異国の集団にどのようにメッセージを伝え、また相手の行動を促すか。しかも、いやがられないように、などグローバルリーダーの必要条件を書き出した場合のキーワードを私はアルバイトでお金をもらいながら身につけたように思う。
――大前研一・船川淳志『グローバルリーダーの条件』(PHP研究所、p1〜2)

 考えてみれば、リーダー(leader)というのは、導く(leadする)人。あとについてくる人たちのことを常に気にかける、ツアー・コンダクター的な仕事の仕方、というのは実に普遍的で含蓄があると、改めて思う。