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自由な思考はどこから生まれるか

言葉

 目先に解決しなければならない具体的なテーマがあるが、背後にもっと大きなテーマが隠れていそうだ――そんなときに、知恵をお借りしに訪ねる方がいる。大学時代の恩師である。静かに暮らしていらっしゃるので、お名前は出さない。常に、何ものからも自由な発想をおもちで、それはご自身の自由人としての生き方からよってきているように思われる。本当は本一冊分くらいのエピソードがあるのだが、一端を記すと――。

  • 30代半ばくらいまでジャーナリストをしていたが、ジャーナリストになった理由がふるっている。「米国のコラムニスト、ウォルター・リップマンにあこがれたから」。それも、リップマンの書いた物にあこがれというより、「午前中は散歩して、午後になると人が家を訪ねてきて、その人たちとの懇談をもとにコラムを書く」というリップマンの生活スタイルにあこがれたから、というのである。

  • 好奇心旺盛かつ、なんでも実践の人である。最近も、『ネットカフェ難民』(川崎昌平幻冬舎新書)を読んでネットカフェに興味をもち、近くのネットカフェに観察に行ってきたという。
  • 旧制高校出の教養人でありながら、「象牙の塔」の中の学知より、日常知を愛する人である。研究者のご友人がドイツに留学したときの、こんなエピソードを可笑しそうに紹介してくださったことがある。そのご友人がドイツに着いてすぐの頃、下宿先のおばさんが「aufheben(アウフヘーベン)」と言ったので、「ああ、さすがにヘーゲルの国。このような市井の人が『アウフヘーベン(=止揚)』と口にするとは」と思ったら、なんのことはない、「そこの布団を上げておいてちょうだいね」とか、そういう意味だった。(aufhebenは、そもそも「上げる」という意味の日常用語)。
  • 卒業を控えた学生たちに、きわめて実践的な二つのアドバイスをくださった。1)君たち、就職したら、二年間生活できる分のお金をためなさい。そうすれば、いつでも会社を辞められるから(もともとは、石田禮助か誰かの言葉であるようだ)。2)君たち、酒を飲むときはなるべく高い店で飲みなさい。そうすれば、飲み過ぎて、酒にのまれるということがないから。
  • 「昔は良かった」「世の中はどんどん悪くなっている」という嘆き節が嫌い。「そんなに世の中がどんどん悪くなっているなら、とっくにこの世は滅んでいるはずだ」とおっしゃることがよくある。

 伺うたびに、当初の目的だった「大きなテーマ」の輪郭をつかむことができるだけでなく、私自身がいかにステレオタイプ(紋切り型)のものの見方をしていたか、ということに気づかされるのである。