パブリックと、「公」と「共」

ウェブの世界では8カ月前というと、大昔のような感じがするけれど、8カ月前(2008年8月)に読んで以来、ずっと意識に引っかかっているエントリーがあるので、引用しつつ、自分の頭を整理したい。

おそらくアメリカでは「パブリック」であるということは「みんなのもの」ということになるのだけど、日本では「みんなのもの」と言う時には「コミュニティのもの」を意味していて、「パブリック」という言葉は「お上のもの」という風に理解されているのではないだろうか。つまり、日本にはコミュニティの外部にある「みんな」という概念がなくて、「パブリック」という概念を本当の意味では理解してないのである。
アンカテ:安心社会から信頼社会への移行をグーグルが強制している

エントリー自体は、グーグル・ストリートビューについて、山岸俊男氏の「安心社会/信頼社会」を補助線にして論じたものであるが、ここでは、グーグル・ストリートビューおよび、山岸氏の分類については立ち入らず、「パブリック」という言葉についてのみ考えてみたい(上記エントリの書き手であるid:essaさんは、阿部謹也氏の「世間論」などについても、ときどき言及されていて、それもこの話題に深く関連するのだが、ここでは立ち入らない)。

さて、私自身も、英語の「Public」と日本語の「公共」というのは、ニュアンスが違うという感じを常々もってきた(そのように感じている方は多いのではないだろうか)。つまり、まさしくessaさんが指摘されているように、「Public」=「(コミュニティの内も外も含めた)みんなのもの」、公共=「お上のもの」という、ベクトルの違いのようなものを感じるのである。そこで、その違和感の正体を確認するために、日本語と英語の辞書を引いてみた。すると、やはり、というべきか、

Public

  • OF ORDINARY PEOPLE  1. connected with ordinary people in society in general
  • FOR EVERYONE   2. provided, especially by the government
  • OF GOVERNMENT   3. connected with the government and the services it provides
  • SEEN/HEARD BY PEOPLE  4. known to people in general, 5. open to people in general; intended to be seen or heard by people in general
  • PLACE   6. where there are a lot of people who can see and hear you

――オックスフォード現代英英辞典(第7版、2005年、旺文社)

という具合に、まず最初に「一般の人々に関する」「全ての人のための」と、「全ての人(皆)」がくる。
そして、Publicの語源は、ラテン語の「publicus(人民)」である(プログレッシブ英和辞典、小学館)。
一方、Publicの日本語訳は「公の」「公共の」(プログレッシブ英和辞典)。

おおやけ(公、大宅)

  • (「やけ」は「家・宅」。「おおやけ」の原義は、大きな家)
  • 1  大きな家。屯倉(みやけ)などの大きな建築物。
  • 2  朝廷。政府。官庁。幕府。
  • 3  天皇。皇后。中宮。
  • 4  国家。社会。
  • 5  公的なこと。政治に関すること。

――日本国語大辞典(第二版、2001年、小学館)

公共

  • 1 社会一般。公衆。おおやけ。
  • 2 公衆が共有すること。

――日本国語大辞典

つまり、日本語で、「公共」と言った場合、「社会一般」と並んで「おおやけ(公)」を意味し、「おおやけ」は、そもそも「朝廷、天皇、国家」であり、まさに「お上」を意味する。
出発点からして、「Public」(「全ての人のための」、いわば「共」)と、「おおやけ」(「お上の」、「公」)というふうに、ベクトルが違うのである。


それゆえ、たとえばインターネットの「パブリック」な(公共的な)性格について議論をするときも、どうしても、日本語だと、「全ての人のため」というニュアンスが弱くなってしまい、本来の意味を伝えきらない感じがするのである。
いうまでもなく、文化は、言語と密接に結びついている。新しい文化が入ってきたときに、言葉の概念がすぐにはついていかない、ということは、歴史上ふつうにみられることであろう。「ドッグイヤー」と言われるほど加速度的に進化するネット世界の動きに比べると、「言葉」のもつニュアンスが変化し、そして、人々の文化のありようが変わるのには、おどろくほど長い時間がかかることだろう。じれったい思いがすることもある。でもいずれ、「全ての人のため」の「新しい公共」が日本にも根付くと、信じていたいと思う。


(追記)
念のため、アメリカン・イングリッシュも。

Public

  • 1. of, belonging to, or concerning the people as a whole
  • 2. for the use or benefit of all; esp., supported by government funds
  • 3. as regards community, rather than private, affairs
  • 4. acting in an official capacity on behalf of the people as a whole
  • 5. known by, or open to the knowledge of, all or most people
  • 6. owned by shareholders whose shares can be freely traded, as on an exchange

――Webster's New World Dictionary of American English(Third College Edition)

(オックスフォード英英辞典の5、6の意味も追記しました。)