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オバマinプラハ

言葉 リーダーシップ

昨日「予告」したオバマのプラハ演説が、whitehouse.govにまだあがらないので、Huffington Postに載った全文より。
まず冒頭で、チェコスロバキアの建国の父であるトマーシュ・マサリクに言及している。1918年にマサリクがシカゴを来訪したときのことに触れ、一気に聴衆との距離を縮める。(マサリクは、社会学者・哲学者出身であるが、1989年に「ビロード革命」でチェコスロバキアの民主化をなしとげた、ハヴェルも劇作家出身である。プラハの人々は「言葉の力」、政治における「言葉」の大切さを身をもって知っている。)

You've known war and peace. You've seen empires rise and fall. You've led revolutions in the arts and science, in politics and in poetry. Through it all, the people of Prague have insisted on pursuing their own path, and defining their own destiny. And this city -- this Golden City which is both ancient and youthful -- stands as a living monument to your unconquerable spirit.

「あなたがたは、戦争と平和を経験し、帝国の興隆と衰退を目撃し、芸術と科学の革命、政治と詩作の革命を導いてきた。プラハの人々は、独自の道を貫き、自らの運命を自ら定義してきた。この黄金の町は、不屈の精神の生きた記念碑である」。この、それほど長くないパラグラフに、ハプスブルグの支配、ナチス・ドイツの支配、ソ連の支配、という歴史を通じて、精神の独立を貫いてきた、チェコという国の歴史が凝縮されている。

さて、オバマは「私が生まれた頃、世界は分断されていた」と冷戦時代に聴衆の意識を導き、「プラハの春」が戦車によって押しつぶされたチェコの冷戦史、20年前の「ビロード革命」の世界史的な意義を語る。「...it(=the Velvet Revolution) proved that moral leadership is more powerful than any weapon.(道徳的なリーダーシップが、どんな武器よりも力をもつことを証明した)」。

そして、「Now, we share this common history.」と確認したところで、現在にひきもどす。グローバル経済の危機、気候変動、核拡散など、共通の課題にふれたあと、いよいよ、核兵器廃絶というこのスピーチのコア部分へ。

Just as we stood for freedom in the 20th century, we must stand together for the right of people everywhere to live free from fear in the 21st century. (Applause.) And as nuclear power -- as a nuclear power, as the only nuclear power to have used a nuclear weapon, the United States has a moral responsibility to act. We cannot succeed in this endeavor alone, but we can lead it, we can start it.
So today, I state clearly and with conviction America's commitment to seek the peace and security of a world without nuclear weapons. (Applause.) I'm not naive. This goal will not be reached quickly -- perhaps not in my lifetime. It will take patience and persistence. But now we, too, must ignore the voices who tell us that the world cannot change. We have to insist, "Yes, we can." (Applause.)

「(...)アメリカは行動する道義的責任を負っている。(...)だから今日、私ははっきりと、信念をもって宣言する。アメリカは、核兵器のない世界の平和と安全を望むことを約束する。私はナイーブではない。このゴールはすぐにはたどりつけない、おそらく、私が生きている間にはたどりつけないものであり、忍耐を必要とするものであろう。しかし、『世界は変われない』という声を拒絶し、私は主張する。Yes, we can.と。」
「アメリカは道義的責任を負っている(the United States has a moral responsibility to act)」というのは、アメリカの外交軍事における「理想主義」を典型的に示している語り方である。
つづいて、冷戦末期からの米ソ核軍縮の歴史、北朝鮮のミサイル、イラクの核に触れたあと、「具体的にオバマが何をするか」を語る。

So today I am announcing a new international effort to secure all vulnerable nuclear material around the world within four years. We will set new standards, expand our cooperation with Russia, pursue new partnerships to lock down these sensitive materials.

We must also build on our efforts to break up black markets, detect and intercept materials in transit, and use financial tools to disrupt this dangerous trade. Because this threat will be lasting, we should come together to turn efforts such as the Proliferation Security Initiative and the Global Initiative to Combat Nuclear Terrorism into durable international institutions. And we should start by having a Global Summit on Nuclear Security that the United States will host within the next year. (Applause.)

「within four years」、「within the next year」と具体的な数字がでてきて、「カラ手形」ではないことを強調する(リアリズムが顔をのぞかせる。)

最後に、もういちどプラハの町にひきつけて、「我々には世界をより繁栄してより平和なものにする責任があることを受け入れましょう。一緒にやりましょう。」と人々に呼びかけて、オバマはスピーチを終えている。


スピーチの全体をふりかえると、「核兵器の廃絶」というビジョン(理想)を示しつつも、「私の生きている間には、実現は難しい」と現実主義が顔をのぞかせる。そして、まず何から着手するのかを、「4年以内」「来年」といった具体的な日程とともに示す。これは、政治家として、絶妙な「理想主義」と「現実主義」の案配加減と思える。
そして何より、冷戦の終焉を象徴する町であり、人々の不屈の精神によって平和が勝ち取られた町であるプラハを、この演説の舞台に選んだ、ということに、オバマ(およびそのスタッフ)の演出の周到さを感じる。「語られる内容」は、「どの場所を舞台とするか」「どういう聴衆に語りかけるか」によって、効果が何倍にもなるのである。