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ペンで書かれたものは斧でも切り取れない

プラハのソビエト学校に通い始めた最初の日から、私は、「ペンで書かれたもの」に対するロシア人の特別な思い入れにたじろいだ。(・・・)
本の学校の習性で、つい正式ノートに鉛筆で書き込んでしまう私に向かって、数学の先生も、ロシア語の先生も諭した。
「マリ、一度ペンで書かれたものは、斧でも切り取れないのよ。だからこそ、価値があるの。すぐに消しゴムで消せる鉛筆書きのものを他人の目に晒すなんて、無礼千万この上ないことなんですよ」
――米原万里嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫、p.105-107)

この慣用句(「ペンで書かれたものは斧でも切り取れない」)は、「武力に対する言論の優位」という意味もさることながら、もう一つ、「筆禍は取り返しがつかない」という意味に使うことが多い。
(同書p.105)

「ペンで書かれたもの」に対する思い入れ、もっと言えば「書かれた言葉」に対する思い入れは、ヘレニズム、ヘブライイズム、ヨーロッパ文明に共通するように思える。
ブログというのは、「ペンで書かれたもの」なのだろうか、「鉛筆で書かれたもの」なのだろうか。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)